赤い糸と言うものがあるらしい。
それは指の中でも一番頼りない小指に繋がれているのだという。赤と言う色は血の色に由来しているらしく、命を懸けて、のような怨念じみたものがそこに込められているような気もして私はなんだか怖くなる。
そして「糸」と言うからにはおそらくその素材は綿。綿は肌触りもよく小指のかぶれも心配ないだろうが、いかんせん強度に不安が残る。運命の人と繋がれているのに、糸側の問題で切れてしまったらたまったものじゃない。
よって今回は赤い糸の素材、色、その必要性、そして結ぶ指についても改めて考えていきたい。今は令和。改良を都度重ねることはどの分野においても大事である。
まずは素材について。綿は前述した通り肌触りが良いが、擦れには弱く頼りない。二人を結ぶ糸がこの世界中の人にもまれているうちに擦れに擦れ、切れてしまうことも予想に難くない。それに伸縮性に関しても優れてはおらず、ある程度余裕のある長さに糸が設定されているとしても予想外の海外出張、旅行、引っ越しなどで思いのほか二人の距離が離れてしまうこともある。ピンと張られたそこに「擦れ」がやってきたらもうお手上げである。
もっと伸縮性がある糸的なひも状のものはないものか、そう考えたときに浮かんだのが「ゴム」である。子供の体育帽に使われているあれ、(あれを口元に引っ掛けしゃぶり続けている奴が小学校の同級生にいた。)パジャマのズボンがゆるくなった時に使われるあれである。伸縮性は抜群、幅広なものを選べば多少の擦れにも耐久性を発揮するだろう。よし、ゴムで決まり。素材はゴム。
しかしそうすると、色に限りが出てくる。私が確認するところ手芸用ゴムの色は黒か白。(ダイソー調べ。)でもまぁ耐久性には変えられないのでここは汚れの目立たない黒をチョイスすることとする。
後は指だ。小指にする意味とは。伸縮性があり幅広のゴムとは言え、思った以上の距離が二人の間に現れたとき、ちょっと「びよーん」ってなる。糸よりは指への刺激は少ないだろうが、それでもある程度の刺激で引っ張られることを思うと、大事な運命の相手の小指が出会うまでに無事でいられるかが非常に心配される。刺激に耐え兼ねやっと会った時に小指がない、なんて言う極道と見紛う事態も予想されるのである。
小指はいかん。弱すぎる。ここはひとつ使ってのかよくわからない薬指にしよう。万が一薬指が無くなったとしても普段から役に立ってるのかなっていないのか分からない指だから良いだろう。(幼少の頃、名に従いこの指で薬を付けてみたことがあるが、非常に使いにくくスムーズではなかった。)
素材はゴム、幅広、色は黒、結ぶところは薬指。ちょっと離れると「びよん」ってなる。
ビジュアルを今想像して全くロマンのかけらもないところで躊躇が生まれるのを否めない。どうしよう。
赤い糸が切れていても、本当なら好きな人と直接指と指を繋げば良いだけの話である。手をつないだだけで分かることがある。言葉を超え理屈を超え、骨の形と皮膚の感触、体温、握るときの強さ、汗、全てに反応する細胞。
(何にも役に立たない指と書いたけど、薬指には結婚指輪の居場所と言う華々しい役割があった。薬指、ごめん薬指。)
私も若かりし頃(まだ人間が四足歩行くらいの頃)好きな人とお揃いの物が欲しいと思った時(言えずじまいだった)いつか突然会えなくなるかもしれない、とびくびく怯えながらも、距離や立場を超え繋がっていたいという欲があったのだ。
好きな人と繋がっている感覚を欲しながら、それでも相手の邪魔にならぬよう、相手の自由を奪わぬよう、いやだったらいつでも相手が切れるよう、切れてしまっても「運命じゃなかったからしょうがない」と自分を慰めることが出来るよう、そんな配慮のもとに「赤い糸」だったのかもしれないなと思った。
よってやはり令和のこの世も、素材は綿、色は赤、結ぶ場所は小指、で妥協しようと思うのである。