男に振られて自棄になり、年下の女友達と酒を飲みに出た日のことであった。ビールをぎゅーっと流し込んだ後、女友達はこう言った。
「今のおもちゃ、すげぇっすよ?」
中ジョッキ半分で、しょっぱなからおもちゃの話しである。濃い。
もちろん我々は大人であるので、おもちゃと言ってもトミカだとか、レゴブロックだとか、プリキュアのなんちゃらではない。頭に「大人の」が付くやつのほうだ。
彼女曰く
「もう彼氏とかいらないっすね」
「だっていつでも欲しいときに欲しいだけくれるんすよ」
「しかも動力電気だけ」
「固くて長持ち」
「終われば無口」
だそうである。
いやぁぁぁ…なんかそういうのは抵抗が‥と言ってる私の話をフル無視して、怪しげなサイトのリンクまできっちり送りつけてきたので、酔っぱらって帰った自宅のベッドにて寝る前までそのリンク先サイトを探検すること30分。
そのネットショップのお店が言うには、
それらを買う事は「女性性の活性化」であり「自分の体を知ることはたしなみ」であり「全然恥ずかしい事」ではなく「お洒落と同じ」楽しんでやることなのだそうだ。
…そうなの…?
色とりどりの棒を眺めながら、これらをお洒落と同じと言い切る乱暴さすげぇな、っつかよくその売り文句で社内でプレゼン通ったなとか思った。
あと、種類がありすぎる。元は肌色のはずなのに色とりどりすぎる。原作から離れすぎてる。もはや違う作品。原作への敬意が感じられない。
しかもなんか棒にあれやこれや付属しすぎ。突起と言う突起が飛び出している。武器か。
いやもう、私、初期装備のこん棒みたいので良いんですけど…。(村の中をウロウロして一生終わるタイプ)
とかなんとかグダグダ言いつつ、なんだかんだで私も大人ですからね、えぇ。それなりに興味はありますから。
「初心者向け♡」みたいに書いている奴を「ぽちっ」としまして。
いや、なんつぅかべ、べ、別にそんなに欲しいわけじゃないけど、友達も勧めてくれるし?話のネタにもなるし?私の好きな青色だったし???
と言うわけで無事購入。
3~4日ほどすると小さな段ボールが届いた。
宅配伝票には「化粧品」と書いてある。そうだよね、まさか「大人のおもちゃ(初心者用・青)」とか書けないよね、うん。なんかありがとうね。
しかし届いたはいいものの、一人の時間になる時がなかなかなく開封せぬまま数日経過。
それまで「どうしよう、段ボールの中で勝手に電源ついてガタガタ動いたら…砂ネズミ買ったとか言えばいい……?」なんて気が気ではなかった。「バイブを持っている女だ」と言う事がこんなに私に緊張感を持たせると思っていなかった。何事も経験である。しなくてもいいタイプの経験のような気はしている。
そしていよいよ一人の日。時は満ちた。いざ開封の儀。
小ぶりな段ボールを開けるといかにも女性向けというような綺麗な梱包用資材に包まれてそれは出てきた。思った以上に青かった。思わず「青っ!」って言った。そしてまじまじと見つめること10秒。
「…………
で…でかくねぇ…?」
もちろん私が頼んだのは件の初心者用である。「初めて買うなら、これ!」というキャッチコピーがついていた。
まさか発送ミス…?
と思って中に入っている明細見ても「初心者用」って書いてある。
いやいや、と。いやいやいやいや、と。
初心者舐めんなと。
どう見たって歴代の彼氏よりデカいぞ、と。そして長いぞ、と。
もしかしてだけどこれが初心者と言われるサイズなの…?今まで私の恋人たちが謙虚なサイズだっただけ…?
「入る…か…?」
ちなみに私のそのあたりを通った人生最大サイズの物と言えば、子どもである。
新生児は通った。新生児の頭の直径は約10cm。青いブツを見る。さすがに10cmは無い。
さすがにいけるかー、と思いつつ、出て来る一方の赤子と、何度も出たり入ったりするこいつとを同じ世界線で比較していいのだろうかと言う不安も少々。
怖がっていてもしょうがないのでとりあえず電池を入れ電源を入れてみると、ブツは勢いよく、ぶごごごごごごごご…!と振動した。おおおおおお…!!!
思いのほかすっげー震える。マナーモードとか言うレベルじゃない。なんか死ぬ間際のセミ掴んだ時、こんな震え方したような。
震え方にも種類があり、ボタンを押すたびに変わるらしい。
どれどれ、と思い何回かボタンを押すと、震え方が変わった。
ぶごごごごご…とか、ぶごっ…ぶごっ、とか、ぶーごっ!ぶーごっ!とかある。
「お好みの震え方を選んでね!」とかかいてあるけど、分かんないよ私…恋人のちんこ震えたことないもの…。
そしてもう一つのボタンを押してみると前後に動くのだ。これも種類がある。いやだから分かんねぇって。前後の動きをリズミカルに使い分けるような丁寧な人いなかった。そしてそんな丁寧な人なら、私とは絶対付き合わないだろう。
ちなみに前後に動かすとギーシャギーシャギーシャ!!!っつって途端にうるさい。
築30年以上の壁の薄い我が家なので隣に聞こえそうな気して集中できそうにないけど
「もしかしてそういうのも込みのプレイ…?」という思いもちらっと。
その他にもまだボタンがあった。ボタン多すぎ。もう一つのボタンを押すと人肌に温まるようだ。細やかな心遣いである。
あとなんか吸うやつも付いてる。全部盛りにもほどがある。ここぞとばかりに欲望詰め込んでる。
いやいや。ずっと観察していても変わらない。何事も行動である。案ずるより産むが易しっていうか。
死にはしない。こちとら経産婦である。なんならひねりつぶしてやるぞ、と。その、ぶごぶご言ってるのも今のうちだぞと。動き止めちゃうぞ、と。
そんな感じで意気込んで、いざ対決の時。
出陣。
(綺麗な桜を見てお待ちください。)
(5分後。)
結果を先に言おう。
ごめん、舐めてたわ。
なんつーの?「震え方のパターンが選べます」とかなんとか考える暇もなかった。「うわうわうわうわ!!!!」みたいになっているうちに、終わった。なんかもう色々と。
すげぇ震えたし、すげぇ動いてたし、すげぇ吸われた。もう盆暮れ正月一緒に来たくらいの祭感はあった。人間ならおおよそ不可能な「入れて動きつつ吸う」みたいなアクロバティックな事を淡々とやってのけるのである、確かにこれはすごいのかもしれない。祭りだ。わっしょいわっしょい。
ならいいじゃねぇかと。最強の相棒を見つけたぞと。彼氏なんていらねぇぞ、と。
私がそう思ったかと言うとそれがもう全然思えなかった。(5分でやられたくせに。)
いや、なんつーかもちろん「すべてやり終えた」のは間違いないって言うか、気持ちいいか気持ち悪いかでいったら断然気持ちよかったし、文句言っていた割にきっちり最後まで走り抜けて白いゴールテープを切ったわけですけれども。ちなみに震え方は「ぶごっ…ぶごっ…」だったんですけど。(要らない情報)
ただ「楽しいか楽しくないか」で行ったら、楽しくなかったんだよねぇ…。
そりゃあ最後まで変わらぬクオリティは素晴らしいと思うし、なんなら細やかな動きのバリエーションとかね、色々披露してくれるし、暖かいし、吸うし(強調)文句ないような気がするんだけどさ、
なんか好きな人とことに及んでいる時の、「かゆいとこに手が届かない感」みたいなの、あるじゃないですか。
早いとか、柔いとか、小さいとか、逆に遅いとか、伸びかけの髭がすれてひりひりするぞ、とかさ、どうしてお前は右手を動かすと左手が止まるんだ、とかさ。貧乳だからって乳をおざなりにするな、とかさ。
なんかそういうのぜーんぶひっくるめて、楽しいと言うか…ないです?
なんかそういうまどろっこしさを全部すっ飛ばして「はいはいはい!震えるよ!突くよ!吸うよ!ね?!こういうの好きでしょ??」
みたいに来られると意外にお腹一杯なんですよ。情緒もクソもねぇと言うか。
盆と正月は分けたい派なんで、私。はい。
と言うわけで使用後ハンドソープできれいに洗い、(キレイキレイ)専用の袋に入れて箪笥の奥の方に突っ込んだまま奴とはもう会っていない。会っていないけど確実に同居している。しかもルームシェア。
私が予想外な時期に死んでしまったらこいつはどうなるんだろうか、と思ったら早いところ家を追い出したいのだけど、なんとなくまだ一緒にいる。居るから私はまだ死ねない。
今日も私が生きる意味なんて、そんなもん。