母親という存在。それは近いようでけっこう遠い。
私の住んでいるところって田舎で、まぁどのくらいの田舎度かって言えば
・電車に乗り遅れたら死んだと思え。だいたい一時間に一本しか来ない。
・周りは基本山。
・玄米を精米するコイン精米所がある。
・回覧板で「こないだ民家の畑で熊がトウモロコシ食ってたからみんな気を付けてねー(いや、どうやって?)」みたいなのが回ってくる。
・車の事故原因が「カモシカがぶつかってきた」「熊が突然車の前に出てきた」と言うのが普通にある。
・夜道で怖いのは人より、熊。
位のいい塩梅の田舎なわけですけど、うちの実家と言うのがこれに輪をかけた田舎で。
上記に加え、
・デリバリーピザの配達区域外。
・回覧板を届けるのに徒歩では無理。(隣家なのに車移動。隣とは。)
・周りが山ってより、山の中に家。
・そこらへん一帯がみんな同じ苗字。郵便屋さんが大変。
・街灯がなさ過ぎて私の友達が夜に遊びに来た時「延々と同じ風景だし街灯無いし、いつまでも着かないし、途中からタヌキに化かされてっかと思った。」と涙目で言われた。
という秘境みたいな場所で76歳になる母よしこ(仮名)は兄と暮らしているんですけれど。
たまに実家に行って泊まる時とか風呂を借りるわけですよ。
というか、なぜか母親と言うものはシャンプー等の詰め替えに対しての姿勢がラフ過ぎるところない?
「パン〇ーン」とか書いた容器に入っているのは絶対パ〇テーンじゃないのよ。だいたい皆さまおなじみの「トップ〇リュー」とか詰め替えされてる。多分安いと言う事が彼女のトップバリュー。見た目寿司だけど、食ったら塩むすび。
まぁまぁ、その程度の事はもう日本全国の実家で多分起こっている(起こっているよね?)事象なわけだからもうびっくりもしないんだけども。
でもある日またお風呂を借りる機会があった時、シャンプーとコンディショナー逆に入っていたことがありまして。よしこ曰く「容器が同じ色だからさっぱりわかんないさぁ。(北海道弁)」との事。
いやいやいやちゃんとここに「シャンプー」とか「コンディショナー」ってちっちゃく書いているからね、この通りに入れてね!ね!
って一応娘として割としっかり目に指摘はしまして。
まぁでも字が小さいし、あの年代の人にはさらに見にくいよな、と思っていたらよしこも工夫しなければ!と思ったのでしょうね。その次行ったときはシャンプーのボトルにでかでかと「シャンプー」「リンス」(彼女にコンディショナーと言う概念はない。)って油性マジックで書いてた。しかも縦書き。やたら達筆。ほぼ「世界ふしぎ発見」の時の黒柳徹子。
いやもうお前、容器パンテー〇とかどうでもよくなってんじゃん‥。
でも、親とは言え人の家だしよしこが生活しやすかったらそれで良いわけですから。
と思ってシャンプー出したらコンディショナーだったんだよなー。でっかく「シャンプー」って書いてあんのになー。ねー。なんでこれ無視したー。よしこー。
でもこっちも44年間よしこの娘なもんでそんなことなんか想定内、特段動揺もせずに、じゃあこっちがシャンプーか、つって。なめらかな思考の切り替えでもって「リンス」と書かれている容器から出したのがまたコンディショナーだった時の私の気持ちな。
とりあえずシャンプーどこだよ。出せよ。私はシャンプーが欲しいだけなんだよ。何重にもなった罠しかけやがって。
風呂場でシャンプーらしきボトルを探しても無かったので、端っこにかろうじてあった旅行用の小さいシャンプー(残り僅か。)みたいの使って事なきを得ましたけれども、その後使ったボディソープの容器から出てきた液体が何となく「…これシャンプーっぽくね…?」とかもうその時にはどうでも良くなってきたよね。聞いてるかよしこー。
こんなこと書くと年齢が年齢なので「おや、お母さま少し痴呆が始まってらっしゃるのでは…?」みたいな心配が皆さまの脳裏によぎると思うのですけど、安心してください、よしこは30年前からこのクオリティです。「クオリティの変わらない、ただ一人のよしこ」です。
そういや一年前に死んだ親父が生きているときにそのシャンプーの話をしたら、
「トニックシャンプーを使おうとして手に出したらシャバシャバしてたけど、誰か薄めたんだと思って頭に付けたらやばい匂いがした。母さんに聞いたらお風呂の排水溝の詰まった髪の毛溶かすやつそれに詰めてた。」っつってて、
え?父ちゃんがハゲてるのって?え?まさか?え?みたいな別の疑問が生まれたりもした。
そんなよしこと私は若い頃はまぁ折り合いが悪かった。口を開けば喧嘩してまして。そんなのが嫌で嫌で私が家出して3ヵ月行方不明になったり。(若気の至り。)
ブチ切れたよしこに灯油かけられたこともありますし(気性が荒いよしこ。)、私もよしこに腕ひしぎ十字固めしたこともありますけれども(どっちもどっち。)昨年父が亡くなって、その機会になんか色々お互いぶちまけてお互い反省して、今やっと親子というか、それ越えて色々話せる女友達みたいになれて、ここまで長かったけれども私は照れ臭いながら嬉しいわけです。
おーいよしこ。聞いてるかよしこー。
76歳でアイプチするよしこ。(そして「そんなのしてないもん!」と言い張るよしこ。女子高生か。)
お父さんの前に付き合っていた人は阿部寛にそっくりだったと言い張るよしこ。(思い出補正。)
年々ハンプティダンプティみたいな体型になっていくよしこ。(ほぼ球体。もう移動は転がれ。)
44年くらい言うの遅くなったけど、産んでくれて本当にありがとう。
なるべく楽しく生きて、長生きしてくれよ。